Update 2021.05.09 2011.02.05

ガレージのパラドックスのすべて
特殊相対性理論

車の静止長(固有長)はガレージのそれより長いとする.車は亜光速で走ってくる.車の動長(ローレンツ収縮した長さ)はガレージの静止長より短くなるのだが,車はガレージに入ることができるのか?また,入口の戸を閉めることができるのか?

ローレンツ収縮で説明できたつもりがそうは簡単でない.車から見ればガレージの方が縮んでいるのだ.車の前端がガレージの奥へ到達したとき車の後端はまだガレージの外にあるのだ.ガレージの入口の戸を閉めることができるのか?

長さの収縮と時計の遅れを時空図で説明されてもまず理解できないだろうし,たぶん間違った解釈をするだろう.それは時空図によって私たちは神の視点を持つからである.つまり,ガレージと車がお互いに観測するのではなく,また,神の視点で観測するのでもなく,私たちは正しい観測者を配置しなければならないのである(双子のパラドックスでも同じ観測者を配置したように).

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(PDFファイルの方がきれいで読みやすいです)
『ガレージのパラドックスのすべて 特殊相対性理論』

『双子のパラドックスのすべて 特殊相対性理論』

■ ガレージのパラドックス その1

車の静止長(固有長)は20m,ガレージのそれは15mとする.車は亜光速0.8cで走ってくる.車の動長(ローレンツ収縮した長さ)は12mで,ガレージの静止長より短くなるのだが,車はガレージに入ることができるのか?また,入口の戸を閉めることができるのか?

最初は,数式,数値を一切使わずに,時計の遅れとローレンツ収縮を正しく使って正しく説明しよう.そして,同時とはどういうことなのかを正しく解釈しよう.



ガレージ系から観測すると,車がローレンツ収縮でガレージより短くなり,車の後端が入口を通過したとき車の先端はまだ奥の壁に到達していないように見える.

車系から観測すると,ガレージの方が縮んでいるのである.車の先端がガレージの奥の壁に到達したとき車の後端はまだガレージの入口の外にあるように見える.

車がガレージに入ったことをどうやって確認するのか.これが1つめのパラドックスである.

ガレージ系の観測者は,車はガレージに入ってしまい戸は閉められると主張し,車系の観測者は,車はガレージに入りきらず戸は閉められないと主張する.見る人によって異なる事象が観測されるのか.これが2つめのパラドックスである.

光速度不変の原理からローレンツ変換やローレンツ収縮,時計の遅れを簡単に導くことができる.これらからミンコフスキー時空図を描くこともできる.これらの計算や図は車の動長がガレージの静止長より短いことを示す.だから車はガレージに入ることができるという説明では1つめのパラドックスは解決できない.

実はガレージの入口に立っている人は,車がガレージの中に入りきったということを確認できないのである.ガレージから少し離れてガレージに入っている車を写真に記録することは実はできないのである.

もう一人の観測者が必要である.車の動長分だけガレージの入口から離れた場所つまり奥の壁より少し手前のところにもう一人に立ってもらい観測してもらう.入口の人は車の後端の通過時刻,奥の人は車の先端の通過時刻を観測しこの記録を持ち寄るのである.これは理論的に簡単にできることであり,正しい観測方法なのである.

この二人は記録を持ち寄り記録された通過時刻が完全に同じであることを確認できる.そこではじめて,ガレージ系の同時刻に車の先端と後端がガレージに入りきったことを確認できるのである.そして入口の人はすばやく戸を閉められるのである.

繰り返すが,入口の観測者が車の後端が自分の目の前を通過していくのを自分の時計で記録し,奥の観測者が車の先端が自分の目の前を通過していくのを自分の時計で記録する.このときは,自分の時計と目の前の車の端を一緒に写真で記録できる.ここで時計を記録する動作のすばやさや戸を閉める機構とカメラの性能を質問することはとても教育的でない.

実は車にも先端と後端に観測者が必要である.先端が奥の壁に到達したとき後端が入口の外にあることは後で記録を持ち寄ってはじめて確認できる.例えば,地上側の観測方法と同じように,ローレンツ収縮した地上に車の静止長(固有長)だけ離れた場所つまりガレージの入口よりかなり手前の場所に観測点を設け,車の後端の観測者はその観測点を,車の先端の観測者はガレージの奥の壁に到達した時刻を自分の時計で記録し,あとから持寄ってその通過時刻が同じになることが確認できる.

ガレージ系で同時に観測すると車が収縮していることが確認され,車系で同時に観測するとガレージと地上側が収縮していることが確認される.車の先端がガレージの入口を通過したときの時刻にすべての観測者の時計を初期化する.ガレージ系の観測者が,車の後端がガレージの入口を通過するのを観測するときに自分の時計を記録し,車系の観測者が,車の後端がガレージの入口を通過のを観測するときに自分の時計を記録したとすると,通過を記録したガレージ系の時計と車系の時計は異なった時刻を指していることが確認できる.

2つめのパラドックスはもうお判りであろう.車の後端の人は車の先端が奥の壁に到達したことを知ることができず,車の後端が入口を通過して戸が閉まったあとに先端の衝突を知るのである.つまり衝突情報が光速以上の速さで伝わることができないのでこのような不思議なことが起こる.

特殊相対性理論がどんな不思議な世界であっても見る人によって戸が開いていたり閉まっていたりすることはありえないのである.

このことで,車は剛体でないと説明されることがあるがそうではない.剛体であろうとなかろうと衝突の衝撃の伝播あるいは先端から順に壊れていく速度が決して光速にならないということだけのことである.ここで車かガレージがどのように壊れるか,壊れたあとで記録を持ち寄れないことを質問することはとても教育的でない.

この類の相対論的な実験がなぜパラドックスになるかというと,物理の実験として理論に合わないことが観測されるということでは決してない.相対論は物理の実験としてはあらゆるところで検証が済んでいる.

相対論のパラドックスは,動いているものは縮みその時計は遅れることの実験の説明が誤解されることから生まれる.不思議な現象が観測されるのは事実だが,実験の観測を慎重にやることによりパラドックスは解消する.


■ ガレージのパラドックス その2

車の静止長(固有長)は20m,ガレージのそれは15mとする.車は亜光速0.8cで走ってくる.車の動長(ローレンツ収縮した長さ)は12mで,ガレージの静止長より短くなるのだが,車はガレージに入ることができるのか?また,入口の戸を閉めることができるのか?

ここでは,数式やミンコフスキー時空図を一切使わず,時計の遅れとローレンツ収縮を,数値を使って正しく説明しよう.そして,同時とはどのようなことなのか正しく解釈しよう.

その1では定性的に説明した.それでも十分に理解できると思うが具体的な数値を入れた説明でイメージを鮮明にしたい.



神の視点

上の図で,その1で述べた神の視点を少し復習しよう。

ガレージ系の観測者は,図Bのようにガレージに入った車を見ることもできないし,写真に撮ることもできない。

車系の観測者は,図Cのようにガレージからはみでた車を見ることもできないし,写真に撮ることもできない。

ガレージ系でも車系でも車の前端と後端の目の前の通過時刻の観測者が必要であり,それによりそれぞれの系の中だけで同時に通過したことが判明する。

その2の図の中の長さの計算やその3のミンコフスキー時空図を読み取るときに神の視点を持ちやすいので注意する。


1光年は光が1年に進む距離で天文学的な数値になる.この光の後ろに時間の単位を付けた距離の単位は,光の場合,時間と距離の数値が同じになるのでたいへん便利である.1光秒=30万km,1光ナノ秒= 0.3mとなる.1光ナノ秒はこのパラドックスを扱うのにちょうどよい長さの単位である.

車の静止長(固有長)20mに対してガレージの静止長15mなのでこのままでは絶対に入らないのであるが,車が0.8cの速度で走ってくると,ローレンツ収縮率1/γ = 0.6となるので入ることができるようになる.

ガレージ系つまりガレージとその観測者が静止している慣性系から車を観測すると,車の長さは20m(66.6光ナノ秒)から12m(40光ナノ秒)に縮んでいる.ガレージは15m(50光ナノ秒)だから3m(10光ナノ秒)の余裕がある.

車の後端がガレージの入口を通過してから,10光ナノ秒/0.8 = 12.5ナノ秒後に車の先端はガレージの奥の壁に到達する.ガレージの入口の戸を閉めるのに十分な余裕がある.

一方,車系つまり車とその観測者が静止している慣性系からガレージを観測すると,ガレージの長さは15m(50光ナノ秒)から9m(30光ナノ秒)に縮んでいる.

車の先端がガレージの奥の壁に到達したとき車の後端は入口に入っていない.それでは,車の立場からは入口の戸は閉められないのか?

実はこの車の先端の衝突情報が後端に伝わるのは,最も速くても光速で66.6ナノ秒なのである.ガレージからはみだしている車の長さは,36.6光ナノ秒/0.8 = 45.8ナノ秒後にガレージに入りきってしまう.車の立場からもガレージの戸は閉めることができる.

ローレンツ収縮は確かに不思議な現象であるが光速度不変の原理から簡単に導ける結論である.

しかし,車の先端がガレージの奥の壁に到達したとき,ガレージ系と車系では車の後端が違った場所に観測されることが不思議である.また,車の後端がガレージの入口を通過するときも違った時刻に観測される.

ただし,これらのことは不思議ではあるが理論どおりであり,完全に検証できるので,パラドックスとは言わないのである.パラドックスは,車系で同時に起こった事象とガレージ系で同時に起こった事象を,神の目で勝手に解釈していることから起こる.

神のごとく絶対的な視点で時計の遅れやローレンツ収縮を解釈することからパラドックスが生まれる.この理論は最初から相対性理論と言っているのにもかかわらず.

相対的な立場の観測者がお互いに観測している事象に何ら矛盾することは何もない.理論どおりことが観測されるだけである.

■ ガレージのパラドックス その3

車の静止長(固有長)は20m,ガレージのそれは15mとする.車は亜光速0.8cで走ってくる.車の動長(ローレンツ収縮した長さ)は12mで,ガレージの静止長より短くなるのだが,車はガレージに入ることができるのか?また,入口の戸を閉めることができるのか?

ここでは,ミンコフスキー時空図を使って解釈してみよう.

車の静止長(固有長)20mに対してガレージの静止長15mである.車は0.8cの速度で走ってくると,ローレンツ収縮率1/γ = 0.6となる.

これだけのデータがあればミンコフスキー時空図を書くことができる.ガレージ系(ガレージが静止している慣性系)から見たミンコフスキー時空図が次の図である.





ガレージ系(ガレージが静止している慣性系)で観測すると,
車の静止長 AD=20m
ガレージの長さ AC=15m
車の動長 AB=12m
車系(車が静止している慣性系)で観測すると,
車の静止長 AF=20m

ミンコフスキー時空図を見ると,収縮した車がガレージに入ることができるのは当然のように思える.

E点が,車の先端が奥の壁に到達した事象を表す.G点が,車の先端の衝突情報が最早つまり光速で後端に届く事象である.EGは光が車の後方に向かうときの世界線であり傾きが45度である.

ガレージの長さと車の動長との差BCは,3m(10光ナノ秒)である.車の後端がガレージの入口を通過(事象A)してから車の先端がガレージの奥の壁に到達(事象E)する時間は,t=10光ナノ秒/0.8 = 12.5ナノ秒であり,ct=3m/0.8 = 3.75mとなる.


事象AEの世界距離を求めてみよう.


事象AE間は空間的(spacelike)な間隔である.このように空間的に離れている事象Aと事象Eの前後関係は判定できないのであるから,車の先端がガレージの奥の壁に到達(事象E)したとき車の後端がガレージの入口を通過(事象A)できたかは判定できないことになる.

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